今回紹介する作品は、通称『ボコ恋』というタイトルで、ある女性の出来事を赤裸々に綴った実録エッセイなのですが、好き嫌いがわかれます。
「性的嗜好」と向き合うことで自分の「生」が見えた・・・という、ややこしいけど重要なテーマを教えてくれる作品。
タイトルやあらすじを見て、ラブやエロ展開を求めて読むと期待外れですぜ。その代わり、多くの女性の背中を押してくれる作品になるはず。
『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』
実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。/ ペス山ポピー
ネタバレ要素があったほうが興味を持たれると思い少し入れていますが、明確な表現はしていませんのでご安心を。
あらすじ・書籍情報
23歳、処女、恋愛経験なし。
だけど「好みの異性にボコボコにされる状況」に興奮してしまう。その欲求をひとりで満たすことに限界を感じ、男性と会う決心をするが、プレイの難しさに心は病んでいく…
そんなある時、似た感覚を持つ男性からメッセージがくる。そして限界寸前まで殴られ蹴られ・・・初恋がはじまった。
性的嗜好がこじれまくった作者が落ちた恋とは?そしてその後に起きたこととは?
ちょっと過激な初恋エッセイ。全2巻。
>>作品公式ページ
感想

読んでよかった…
タイトルと単行本の表紙だけ見て『モラ男に殴られてるうちに好きになっちゃう話か?』とか思ってしまってごめんなさい。全然違いました。
描いてくださりありがとうございます。
これを「マゾヒズム」という言葉で包むのは、彼女の一部を切り取り、それを世の中に存在する言葉の中から近い内容を当てはめているだけで、作品のテーマはもっと壮大です。私たちにとってもの凄く大事なことを表現してくれている。
著者・ペス山ポピーさんの根っこは、非常に複雑。
ずっと抱えていた欲を満たそうとした結果「女」という箱も開いてしまうことになるのですが、そこに辿り着くまで生き辛かったでしょうね。
タフだなーと思うのが、性的嗜好を=独立した欲求・単なる性欲と捉えず、そこから始まるザワつきに病みつつも向き合っていたところ。その姿勢が、最終回のあの描写に繋がったんでしょう。
匿名とはいえ、性的嗜好からセルフ行為の方法wまで描くって勇気のいると思うし、フタをされがちなこのテーマをストレートに綴る姿勢は純粋に『読んでよかった』と感じますよ。
そしてこれは、ペス山さんだけでなく私たちにも同じことが言えると。
なぜ女性にオススメしたいのか
この作品はとにかく女性に読んでほしい。男性も読めるとは思いますが、多分制作側は想定してないんじゃないかな。
何でかというと、女性は男性より限界を感じやすい性だと個人的に考えているから。
生きてるだけでぶつかってしまう壁って、男性よりも女性に多くあると思うんですね。女性蔑視でもなんでもなく、それはペス山さんが意を決してスマホで相手を探したように「性的嗜好の選択肢」を見ても明らかです。
そこには男性と女性の性の違いがある。
仮にペス山さんが男性であれば、殴ってほしい欲を叶える選択肢は他にもあったでしょう。それどころか、そもそも性的嗜好でこれほどまで葛藤しなかったかもしれません。深く考えず、適当に処理できたかもしれない。
・・・ってことは。
産まれてきた性別が違えば、こんなに自分と向き合うこともなかった可能性だってある。女性として産まれてきた意味があったということ。
つまり、女性という「性」に何かしらの想いを抱えているなら、そこを突くと隠れていた自分と向き合える可能性があるってことだと思うんです。
ペス山さんは作品内でこれを表現してくれているんですね。
例えば作品内でのペス山さんは、性的嗜好をきっかけに、女性である自分を自分で否定していることに気が付きます。以下、一部抜粋。
起点:イケメンに殴られたい
▼ ▼ ▼
○ 暴力嫌いなのに、身体が反応
○ 脳内で自分を別の生物に置き換え
○ セルフ行為の表現が男性的
○ 異性に身体を触れられたくない
ってことはですよ。逆にね、
自分の奥に眠る「本当の価値観」に触れてもらうために、性的嗜好が大きくなることもあり得るんじゃないかな~って思うのです。
本体(自分)は気付いてないから、無意識が気付いてもらおうとあの手この手で自分を刺激する。その手のひとつに、性があってもおかしくはなくて・・・
そこに私はとても「生」を感じました。もう、そういう意味では自分と向き合うための教科書に近いです。この作品。
面白いね、人間って。
『変態市場はブルーオーシャン』『サキュバスみてえなオカズ』など、タイトルだけでなく表現も独特。そして、読んでいてジワジワと涙が出てきた作品は久しぶりです。
ぜひ。
私は今のところ特殊な癖はなく、身も心も一応女ではありますが、一般的に特殊と言われる嗜好はなくても、ペス山さんが持っている『普通の女』って表現は、とてもよくわかる。
別に感じなくていいのに、多数派じゃないってだけで、女から追い出されたような感覚。
そこから生まれる『普通の女なら・・・』という怒りや嫉妬。自分にある女と世の中の女のズレを一緒にしなきゃ!という焦りや不安。年齢を重ねて強くなる『男が羨ましい』という気持ち。
作品序盤にある「抑圧された(した)性的欲求=投獄、懲役」の描写は悲しいけれど、わかるなぁ。
そんな、決めつけなのか諦めなのか余計な荷物は年々増えている身には、くるものがありました。
肉体上変えられない女の部分はありますが、それ以外は自分で作っていけると胸を張って言えたら、いいと思う。